悲しき熱帯 懐かしい響き 朝日新聞より |
約1カ月、レビストロースの調査団と過ごしたという。
「我々の言葉を覚えようとしてくれた。ブランコには珍しい、いい人だった」
10代だったティトは虫や動物の名前を教えたという。
「彼と会えるなら伝えておくれ。『懐かしいよ』と」
96年作成のティトの身分証明書をみると、生まれ年は36年となっていた。レビストロ
ースの調査時には2歳だ。だが先住民保護の官庁によると、ナンビクワラ族は暦が
はっきりしない。このため人口動態調査の聞き取りでは、おおまかな生年月日を推定す
るだけだという。
古老の思い出話が真実なのかヾ私には分からなかった。
ただ「進歩は災いだけをもたらした」と語る、悲しげなまなざしが胸に残った。
レビストロースは「異常な発育を遂げ、神経のたかぶりすぎた一つの文明によって乱
された海の静寂は、もう永久に取り戻されることはない」と記した。