日々l是修業 佐々木閑教授 朝日新聞 |
「人生の苦しみをなくすためには、心の構造を正しく知り、その中の、苦しみを生み出す悪い部分(煩悩)を、白分の力で消し去らねばならない」と釈迦の仏教は言う。しかし「心の構造を正しく知る」と言っても、科学的な分析方法などなにもなかった時代だから、頼りになるのは自分の知力だけだ。
「精神を集中して、そのカで心を観察せよ」と釈迦は教えた。確かにそれは、効果のある正しい方法だと思うが、容易な道ではない。当時それが最も効果的手段だったに違いないが、もしその時代に脳科学的な探究方法があったなら、それも取り入れていただろう。すぐれた合理
主義者であった釈迦なら当然のことだ。亘の、釈迦の時代には望むべくもなかった、新たな「心の探究方法」が、脳科学の発展で飛躍的に進んできている。今では、紳胞一個一個の変化を、数百分の一秒単位で精密に調査することが可能だ。私たちの心の動きが、脳細胞のどう
いった作用によって生じてくるのか、・・その複雑なシステムが次第に分かってきている。客観的な科学情報としての「心」が解明されつつあるのだ。
これに対して、「科学で人の心がすべて解明できるのか」という疑問の声が起こってくるのは当然だ。私も、科学がすべてを解決するなどとは思っていない。
しかし脳科学が、今まで誰も分からなかった心の構造を、驚くほど明晰に解き明かしっつあることも事実である。この先、脳科学が、「己の心を見よ」と言った釈迦の教えの強力な支えになっていくことは間違いない。腰を据えて、脳科学が解き明かしていく新たな世界の行く末を見守っていきたい。(花園大学教授)
科学に耐えられる、宗教でないといけない?