テンプルトンの遺言 日経新聞 |
今年七月、九十五年の生涯を終えた米大物投資家、ジョン・テンプルトンの一言だ。六〇年代、誰も関心を持たなかった日本株を大量に芦号バブル崩壊前の八〇年代に売り抜けた手腕
は世界的に知られている。テンプルトンが戒めた「今回は違う」という風潮は、バブル崩壊の初期に広がる。崩壊の怖さを知っているのに、いざ直面すると事実を認めたくなくなる投資家の希望的な心理だ。「銀行が損失を隠し続けた日本とは違う」。四月、米議会で九〇年代の日本の金融危機との比較を問われたバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の発言だ。この油断が対応の遅れた伏線ではなかったか。
ウォール街の教訓は興味深い。「曲が流れる以上、踊らなければいけない。我々はまだ踊っている」。シティグループのプリンス前会長は昨年七月、強気をぶった。危機が本格化した「パ
リバ・ショック」の一カ月前。「今回は違う」のワナの怖さを象徴している。
テンプルトンは、市場心理の浮き沈みを説明する名文句を残した。「強気相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、陶酔の中で消えていく」。現在は強気が消え、
悲観の中で再生するまでの過渡期かもしれない。
大恐慌、世界大戦、そして数々のバブルと崩壊を知るテンプルトンの遺言。激動の今こそ輝きを増す。 日経新聞より