吉田蓑輔さんの私の履歴書 |
その前日、記者会見で「たとえ足遣いでも、人形遣いに戻りたかった」とゆっくりゆっくり声を絞り出しながら、不覚にも涙がこぼれ落ちて抑えられなくなった。
久しぶりの舞台の感触。首は重かった。相方の長石衛門は長年、舞台で連れ添った吉田玉男兄さん。最後の心中の場まで兄さんを頼りに懸命につとめた。舞台に立つ睾びが心の底から湧いてきた。人形を遣いながら、兄さんは病後の私にさりげない気遣いをしてくださり、何度も込み上げてきた。
若いころ、夜が更けるまでともに痛飲した。その山川さんは「一合までいかない、八勺の酒をちびりちびりと愛おしむように呑むと、もみじみうまいのですよ」と話す。同感である。病と戦い、見事に
克服した山川さんは今は戦友です。