今は亡き辻邦生さんの、生きて愛してから その2 |
日本人はそれでひどく楽をし、文化的な生活をしていると満足しているが、この階段の一歩一歩の楽しみが、案外生きる喜びと直結していることをどうやら見落としているようだ。
イギリス人がパブなどで一杯のビールを前にパイプをふかしている男の顔をみていると「ああ、こいつは、今刻々に時間が過ぎてゆくことを楽しんでいるのだな」と思う。
こうした生き方をしていれば、朝、雀の囀りを聞いても心が晴れる。午前の時間が、まだ疲れを知らず、軽やかに流れるのを感じて、仕事をしている自分が嬉しくなる。正午の時間が充実して、なお多くの可能性をはらんでいるのも見て、あたりの空気まで成熟しているような気になる