読書 日本人の死に時 |
治らない状態の人を、医学的にどう支えていくのか。それがわれわれの目指す老人医療です。
言葉は悪いですが、「中途半端に助かってしまう人」を創りだしてきたのではないでしょうか。
現代の医療はすでにやや進みすぎです。進めるだけでなく、別の方向を探ったり、ときには一部を棄てることもまた、人間の知恵ではないでしょうか。
わたしは長寿はよいとは思いませんが、天寿は否定しません。与えられた寿命で、ほどほどに死ぬのがいいと思います。
「ええことなんか何もないです。苦しいばっかりや。つらいことばっかりです。このまま死んだほうがどれだけ楽か」
「もう八十五にもなって、行き過ぎやと思ってる。もう人生の役目も楽しみも終わった。いつ死んでもええんやよ。それから、こんな苦しみや不安で年寄りをいじめんといてほしいのや」
サプリメントについてよく訊かれます。「どのくらいの確率で効くのか」と聞かれたときには、「ほとんど効かんと思うよ」と答えます。
たとえば、元気で長生きなのに、不平不満の多い老人はけっこういます。アンチエイジングが成功しても、それだけでは幸せになれないということです。
だけど、やっぱりいい生活もしたいし、健康も欲しい。作家の村上龍氏も言っていますが、何かを選ぶということは、それ以外のものをあきらめるということです。
健康を優先するなら、欲望は抑える。それが、無理のないやり方ですが、無理をしてでも両方を得たいという人が多すぎる。
抗加齢ビジネスは、夢を売る商売だという考えもあるでしょう。しかし、現実的なアンチエイジングなどは文字通り夢物語です。良心的な専門家は、もう少し「アンチ・アンチエイジング」の声をあげるべきなのではないでしょうか。