入る出る 流れをつくる幸せ 辰巳 渚さん |
この間に感じた変化は、ふだんの会話で「捨てなきゃ」という言葉が普通に聞かれるようになったことですね。多くの方から「捨てていいと、背中を押してもらった」と言われました。
でも今は逆に「捨てないといけないのに、捨てられない」という相談をよく受けるようになりました。私が「捨てなくてもいいんですよ」と言ったら、「安心しました」って。やっぱり皆さん、捨てられない。人生の中で手にした物とどう決別するかは、大きな課題なんですね。
一番大切なことは、幸せに生きることです。では幸せに生きるって、具体的にどういう姿なんだろう。それが私の一貫したテーマです。
生活とは流れです。入って出て、入って出て、を繰り返している。私が主宰する家事塾では、その流れがうまく続くことを目指しましょうと話しています。入れて、使って、出していく。この流れの感覚、自分の手で回す感覚が大事です。捨てることは流れの一部。捨てることが目的ではないし、減らせば威らすほどいいとは思えない。
最近、年配の女性だちから「要らないとわかっているし、捨てると決めた。でも、ごみになると思うと手放せない」という悩みを聞きます。
一方、娘や義理の娘にすれば、母や義母の食器棚がいっぱいで、すごい状態になっている。これでは生活も大変。だからといって「捨てよう」「処分して」と言うのでは、よかれと思う忠告が逆の結果になりかねません。
私が提案したいのは、親子で一緒に整理しながら、一つ一つにまつわる話を聞いてあげることです。「これは新婚の時お父さんからもらったの」「この器はこう使うのよ」っていうような。そして娘は「じゃあ、これ使うね」と言って引き取ってあげる。大事な物だからこそ、それを誰かに託せたと思えれば、人は安心して手放せます。それが近親者ならなおのこと安心だし、これをきっかけに親子のコミュニケーションも広がるでしょう。
でも娘の家の物が増えて大変じゃないかって? 母は、自分ではバザーに出せないけれど、娘の手に移ったあとは大丈夫なんです。これも、幸せのための「捨てる技術」ですね。
65年生まれ。編集者を経て、自分で始めた「家事塾」で暮らしの哲学を探る。最近の著書に「物の捨て方 のこし方」「幸せの生前整理」など (聞き手 編集委員・刀祢館正明)