「虚構の成長戦略」資本主義は死んだ 水野和夫 文藝春秋1月号より |
・X軸=販売量、Y軸=粗利益とすれば、X軸とY軸で囲まれた空間の面積は概ね、実質GDPを意味することになって、X-Y空間の膨張率は実質GDP成長率と等しくなる。「より速く、より遠くへ」とは、X軸に従って先へ先へ伸ばそうとすることであり、市場を求めて販売数を増やすことである。
・「より合理的に」の方は、Y軸を先に先に伸ばすことだが、粗利益は交易条件と正の関係にあるので交易条件を高めればいい。・・・少ないインプットでより多くのアウトプットを生み出すことが「合理的に」向かうことになる。
・21世紀に入って、原油価格に代表されるように資源価格が大幅に高騰したため、輸入物価が上昇し、交易条件は大幅に悪化した。そのマイナスを補うために、X軸お以前に増してさらに先へ伸ばそうとする力が働いたのがグローバリゼーションである。だが、21世紀の段階で、それを伸ばす余地はあまり残されていなかった。グローバリゼーションはすでにアフリカの末端まで到達してしまい、「より遠くへ」広げることができなくなってしまっているのだ。
・(日本では)1990年代以降の「失われた20年」において、強まるデフレ圧力を和らげるための切り札としてグローバリゼーションが叫ばれたのは、まさに「合理的」であった。だが、グローバリゼーションは成長には結びつかなかった。
・金融自由化は何を狙ったのか
XーY空間の膨張の行きづまりが見え始めた時、もう一つの別のZ空間を創出することで、さらなる膨張を図ろうと考えた連中がアメリカを中心に現れた。
・X-Y空間の膨張が止まったのだから、この先経済成長はゼロとなる。さまざまな努力を重ねても、ようやくゼロ成長が達成されると考えた方がよいくらいである。
・資本主義を死に至らしめる最大の要因はエネルギー価格の高騰である。
・近代の理念をひっくり返せば、「よりゆっくりと、より近くへ、より寛容に」
・「よりゆっくりと、より近くへ、より寛容に」の具体的な方策としては、地方分権あるいは地方主権の理念のもと、例えば道州制を採用することが1つに解決策であろう。商取引は原則、域内で完結することをめざし、他地域に農産物やエネルギーを頼らないようにし、学生も域内の大学に進学すれば、域内の企業へ自治体への就職の際に優遇する。
・「より速く、より遠くへ、そしてより合理的に」から、「よりゆっくりと、より近くへ、より寛容に」へと、理念を逆転するところからはじめないと、近代の行きづまりを克服できないと私は考えている。
追記 2020/07/26