わたしが人生について語るなら 加島祥造著 |
<抜書>
・私の場合は、70歳近くになって、ひとりでここに引っ越した。この場所が気に入ったからだ。好きな日本アルプスの姿を見ながら、静な時間を持ちたいと思ったから。
・自分でも気がつかないある力に動かされて、ごく自然な流れで今のような暮らしに落ち着いたんだよ。
・八十七歳になった今でも、まだ日々成長している感じだ。
・でも、心の方は、何歳になろうとも驚いたり、嬉しくなったり、誰かを愛したりする。どんなに歳をとったって、身体が不自由になったって、決して心はしなびたりしないー感動さえあればね。
・これが生涯の道になったのだから、偶然に導かれたと言える。自分の知らないなにかがさそってくれて、私の直感が素直に従ったんだな。
・その「ほんのちょっと」が意外に大切なものだったと思える。その「ほんのちょっと」が何かというと、「英語をやっていれば、好きな文学を学べる」「これだったら自分にも出来るかな」というかすかな勘だ。
・人と比べて劣等感を持ったり、自分に合っていないからと悩むより先に、おもしろいこと、楽しいことはないかと鼻をひくつかせる。そして、楽しみの気配をかんじたら、あまり迷わずにその方向へ進んでいく。
・子どもの頃に、おもしろがって吸収したものが、身体のなかで練り合わされ、熟成されて、次の知識や思考の土台になっていく。人間というのは、そのようにできているようだ。
・楽しみながら夢中になってやったことというのは、一生その人のなかから消えないんだ。でも、誰かに強制されてしぶしぶやったことは、やり終わった途端に忘れてしまう。
・よく遊び、好きなことをし、楽しむことが大切だと思える。「好きなこと」というのは、楽しいと思う遊びから勉強や仕事まで、すべてを指す。
・逆に考えると、将来役に立つだろうと計算して何かをやるのは、かえって損をするのかもしれない。目的意識だけに縛られると、「好きでやる」という方向を失ってしまう。
・世間ではよく子どもや若い人に「自分の好きなことを見つけてそれに向かって進みなさい」と言う。・・・「自分の好きなことに向かって進む」というとき、それは将来のことを言っている。でも本当の「好き」は、「今、このときの」の感情だ。「今」したいと思うことを「今」する。それが「好きなことをする」ことの本来の姿だ。
・私はね、排斥した人を恨んだりしなかった。どうしてかというと、自分の好きな人生を進んでいたからだ。「自分の心の声に従っているんだ」という解放感や満ち足りた気持ちが、心の奥にあったからだ。・・気持ちに素直に従うことがとても大切だと、そのとき思えたんだよ。
・だから、自分が楽しい気持ちでいるのは、自分自身のためでなく、まわりの人のためでもある。自分の好きなことをして人生を楽しむことが大切なのだ。
・先のことなんてわからない。どの方法がいいかなんてことも分からない。逃げたりごまかしたりしながら、でも、あきらめないでいたら、大丈夫なのだとおもう。
・変化っていうのは、思いがけない時に起こるものなのだ。
・(体は)どこがちょうどいいところか知っていて、それ以上はいかないように調節できるんだ。つまり、体は頭より賢いということだな。だから、体の感覚は、とても大切なんだ。
・好きなことをしている人は、ひとりでいても孤独にはならない。
・そして老子は、こんなふうに言うー私たちはみんな、とっても大きなものにつながっているのだ、ときには、流れにまかせていればいいんだよ、と。
・わたしたちは三つの大切な宝を持っていると老子は言う。一つは、他の人への愛情だ。二つ目は、自分のものだけに満足して欲張らないこと。三つ目が、人の先にたって威張らないことだ。
・深い愛があれば勇敢になれる。いつも質素にしていれば、いざというときに気前よく人に与えることができる。そして、人より前に行こうとしていなければ、まわりの人はあなたと競争して蹴落としたりしない。
・自分の中の良いものをよく知って、それを喜び、味わい、人と分かち合える人が、本当の人であり、老子の考え方はまさにそこから発している。
・老子は柔らかいものを大切にする。なぜなら柔らかさが、命の働きに沿った性質だからだ。生まれたばかりの赤ちゃんは柔らかい。動物も植物も、生きているものというものはしなやかかで柔らかい。
・命という大きなものにしたがって、やさしくて弱い自分でいれば大丈夫なんだ。
・自分のなかにある命を信じなさい。このことを、わたしは言いたいんだ。命はその人をひとを生かそうとする。もっと楽しく、もっと幸せに生きられるうように働く。決して、その人を傷つけたり苦しめたりしようとはしないよ。・・・大切なときには、それをやめて、体の本能や直感で感じることを大切にしたほうがいいんだ。
・このように人の能力というのは、いつ芽生えるかわからない。私のことは、そのいい例だと思う。
(60歳過ぎてから絵画を始めた)
・人生の問題にしても、社会の問題にしても、たいていのことは、かなり時間のかかるものだ。
・ずっと同じということはけっしてない。変化というものは、私たちの思う通りには現れてこない。いつも思いがけない変わり方をする。求めてつかめるのはわずかであり、大きな変化は思いがけなく起こるものだ。
・だから、変化という小さな波が来たとき、頭とか知識とか上のほうだけで受け止めると苦しいよ。もっと下のほう、心の深いところでつながっていると、ひっくり返らないよ。体で感じる感触、本能、無意識の世界につながっていることだよ。
・この平和の恵を、子どもたちにたっぷり味あわせてあげたいと私は願っている。それには、私たちひとりひとりが、自分の命の声を聞き、自分のまわりにいる人の命の声を聞くーそのようにやっていきたい。
・人生で一番大切なのはバランスだよ。すべての生きものは、左右のバランスで生きていく。そのようにつくられているんだ。・・・・左右の羽を広げられる機会は、誰にもきっと来るものだよ。いつ飛ぶか、どういうふうに飛ぶかは命が選択していく。そのときを信じて待つこと。それだけだ。