行政は急ぐよりビジョン練れ 藤沢 烈さん 復興コーディネーター |
まず、「復旧」と「復興」を分けて考えてほしい。震災から3年が経ち、がれきの山はほぼ片付けられました。10万人の被災者に仮設住宅の提供ができていて、これから災害復興住宅も次々に完成する。海外から視察に来た人は「奇跡だ」と驚いていますよ。
■「復旧」だけでは
つまり復旧という意味では、世界トップ級の速さなんです。それは震災後5年の集中復興期間に、25兆円という巨額の復興予算を国が確保し、インフラや盛り土、高台造成にどんどん投入してきたからです。初期の緊急対応で相当手厚くやったな、というのが、私が復興コーディネーターとして行政や企業、NPOと住民の利害調整をしながら感じたことです。
ただ、復旧というのは失われたものを元に戻すだけです。それでは東北の問題は解決しません。もともと過疎化で人口が減り、高齢化も進み、産業基盤が弱体化していた。以前から抱えていた構造的な問題が、震災によってより鮮明になったのです。元通りに戻すだけでは未来は見えてきません。
たとえば水産加工場です。本当は新しい場所に、もっと付加価値の高い商品をつくる新しい工場をつくりたい。しかし復旧に資金を出す行政の仕組みでは無理ですから、元の場所に元の施設を再建する。人手が集まらず、せっかく完成しても稼働できない工場が出てくる。それが現実です。
だからといって、そこまで行政がお金をつければ際限がなくなります。市場をゆがめることにもなる。行政には「復旧」という最低限の任務を淡々と果たしてもらい、その先の産業や地域の「復興」は民間が担っていく。いまはそんな段階です。それには知恵と人材が欠かせません。
予算の使い道はハードに偏りすきていました。21年前に大津波に襲われた北海道の奥尻島も、大量の資金が投じられて立派な防潮堤と住宅街ができた。でも人口減は止まらず、いま街は閑散としています。最近、奥尻の町長さんが、住民の要望を受け入れて義援金を配りきったことを悔いる発言をされたと聞いて、ハッとしました。
もちろん住民には寄り添わないといけない。だけど、それだけではいけない難しさがあるんだと。
私は行政はこれ以上急がない方がいいと思います。防潮堤などのインフラ整備で住民との合意がないまま急いでも禍根を残すだけ、ハコものが増えるだけです。それより10年後、20年後をも見据えながら、どんな地域社会をつくっていくのか、大きなビジョンを改めて考え直すときだと思います。
■ソフト面もっと
驚いたのは、地域の人のつながりが思った以上に弱まっていたことです。東北ですらそうなのですから、東京や大阪など大都市部が被災した場合、住民の合意形成の難しさは並大抵のものではないはず。その自覚が自治体にあるでしょうか。建物を築くのと同じように、コミュニティーも専門的な知見をもとに築いていく。そういったソフトの面にも、もっとお金をつけていってほしい。
お金には地域の自立を妨げる危うさもあります。「いける」と思えばこそ、借金してでもやるのが復興でしょう。ところがお金の話が先になると、予算をつけてもらいやすいように事業プランを変えてしまう。そうなると自分たちが本当にやりたい事業なのか、わからなくなる。誰もリスクを取らなくなり、依存が生まれます。お金がつかなくなった途端に、その事業は終わりですよ。
東北新幹線に乗って被災地に足を運ぶたびに、思うんです。私は単に500㌔の距離を移動しているだけではなくて、20年後の日本にタイムスリップしているんじゃないかって。すでに東北と同じような課題を抱えた過疎地は日本の各地にあります。東北が抱える構造的な問題を解決できないと、日本の未来も開けない。東北の被災地を支援することは、未来社会をデザインすることでもあるんだと考えています。
75年生まれ。マッキンゼーを経て、11年9月に被災他の街づくりに関わる「RCF復興支援チーム」を設立。昨夏まで復興庁の非常勤スタッフも務めた。(聞き手・萩一晶)