人生の色気 古井由吉著 |
・ところが、個室が徹底してくると、個室の中で人が衰えてしまうんです。いざ個室を持ったら、やる気にならなくなるとか。人間は、運命的なものに対する緊張感があるかないかで、生命力が強くなったり弱くなったりします。緊張が抜ければ、生命力が弱まるものです。
・怒っている老人が本当に増えました。身内にしか見せないような憤懣を、外でみせますね。切れる年寄りたちはみな、まず人に責任をもってゆくでしょう。なんでも人のせいにします。
・人はずっと若いままではいられません。中年に入る契機の一つは、やはり親の死です。人が死ねば何かが起こるものなんです。・・・、昔は、死はみんなに開放されていたのです。男女の交わりが隔離されていなかったのと同じように、性と死は身近なものでした。
・安倍晋三さんの顔が、五十を過ぎているとは、昔の感覚ではありえないです。やっぱり、年のとりかたが変わっているんです。つい二、三ヶ月前、テレビで田中角栄と大平正芳が映ったけど、迫力が違います。ちゃんと年を重ねているのは、あの世代までじゃないですか。
・気ままがいいといっても、あまりに義務や拘束が少ないと、かえって居心地よくありません。だから、あんまり長いモラトリアムも困りものですね。
・戦後に埋め込まれたものだけど、人はみな仲良くして、協力して陽気に楽しくやらなければだめという強迫観念があるでしょう。でも、本当をいうと、いつも円滑円満なんて無理なんです。人は鬱の時にいろんなものを蓄え込むものです。
・面白いことを追うためには、面白くないことにうんと耐えなければいけません。面白い道に入っても、すぐに面白くなくなります。でも、止めてしまえば、本当に面白いところには行かれません。・・・面白くないものほど、面白いということもあるんです。
・よく「不倫」という言葉を使います。そのひと言で、婚外恋愛のすべてのいきさつが封じられてしまい、デジタル化されてしまうんです。どういういきさつで深い関係になっているのかが問題のはずなのに、すべて「不倫」という概念の中でパターン化されてしまいます。
・とにかく忙しすぎるんです。自分で考える時間や癖をあたえられることがありません。これまでの社会では、まず、何かを選択する前に、自分で考えるプロセスがあったんです。
2017/03/04
又吉さんの、師匠が、古井由吉さんだったのですね・・・知らなかったです。
こんな、渋い人が、師匠筋だったとは!!