まだ、邦訳は出てないみたいだけど、読んでみたい「シベリアの森の中で」 |
ところが今回は、バイカル湖畔にある人里離れた丸太小屋に居を構え、半年間じっと動かない生活を送った。数年前、旅の途上に出会ったこの場所で、40歳の曲がり角を前に隠遁(いんとん)生活を送りたいと願ったのだ。マイナス30度を超える2月のシベリアの森にこもって、何も持たず、誰とも会わ
ず……。
いや、最小限の食料と斧(おの)や釣りざおなどの準備は万端。 67冊の本も持参した。小屋にはごくたまに旅行者や漁師や密猟者の監視員たちが立ち寄る。歩いて5時間かかる場所に住むお隣さんに会いにゆき、ウオツカの杯を交わすこともある。
森での生活は今日を生きるために必要なこと一薪を割り、魚を釣り、火をおこし、ちっぽけな小屋に秩序を与える一以外には、自分を取り巻く壮大な自然の移ろいを見つめることに集約されてゆく。隠遁生活を通して、テソンは自然と共生することの過酷さと素晴らしさに心を震わせ、現代社会にとっ
て最大の贅沢(ぜいたく)になってしまった真の孤独の豊かさを鋭敏な感性で克明に描写する。