自然との関係今こそ議論を 朝日新聞 |
日本が成し遂げた成長に感心しながら、得たものと失ったもののバランスがとれているのか疑問を持った。明治生まれの方のライフヒストリーを記録し、社会変動を農村の視点から考えようと思った。
長野の集落で出会った農鍛冶屋さんは立派な方だった。江戸時代に作られた工場で語る明治生まれの彼は、哲学者であり、自然学者でもあった。鉄の農機具を作るには、自然界と対話しないといけない。どんな農機具が一番自然界に合っているのか、考えないと作れない。農鍛冶は何百年、何千年前から続けられ、彼はその知識を持っていたのに、当時の日本では評価されなかった。「僕はお墓にその知識を持って行きます」と話した。様々な職人さんの話を聞きながら、伝統の継承を急にストップさせて、日本の社会は健全に歩めるのか、と思った。
山漁村の伝統、歴史を評価しない日本の社会は滅びるんじゃないかと思ったが、有機農法など環境に配慮した農法に一生懸命取り組む人たちが出てきた。当時は変わり者にみられていたそういう人たちが、ギやオピニオンリーダーになっている。農山漁村に生きるプライドを持ち、自分かちの生き様が立派だという精神を持つ人が増えた
私たちはテクノロジーをどんどん導入している。しかし、新しい技術を導入することで自然界との関係は変わってていく。どうプレーキをかければいいか。その答えのヒントを、能登の舳倉島の海女さんが教えてくれた。
昔から海に入っていた彼女たちは、新たに世に出てきたウエットスーツや水中ゴーグルをを着用するかどうか、みんなで話し合って決めてきた。でも、空気ボンベは3年議論して最終的に「ノー」という結論を出した。これ以上導入すると、我々の命を支えてくれる自然界を壊してしまう。先祖にも子孫にも申し訳ない」と。
どういうライフスタイルを選べばいいのか。次世代に引き継ぐことも含め、短期、長期の時間軸を交えた議論が必要だ。