生きるために生まれた 咲セリさん ぬくもり探し危うさを渡り歩いた |
この猫は何の取りえもないのに、そこにいるだけでいとおしい。「セリはそのままでいいんだよ」。カジが繰り返していた言葉の意味が初めてわかった。2人は結婚した。
父は、家族で一つの鍋をつつくことも図書館で本を借りることも不潔だからと禁止した。
今ならわかる。父もまた何かにおびえ、生きづらさのストレスを家族に向けるしかなかったのではないかと。
「生きていてもいいの?」とおぴえていた咲は、.ポロボロでも懸命に生きた猫に「生きるために生まれたんだ」と教わった。父に虐げられた記憶も、自信を持てなかった過去も、すべてが今の私を形作っている。いつ死に引き寄せられるかわからない危うさを抱えながらも、あの父と母から生まれてよかった。今、咲はそう思っている。=敬称賂(机美鈴)朝日新聞より