田原総一朗さん 朝日新聞よりなかなか、良い問題提起と思う |
なぜか。補正予算案に対する民主、自民、公明3党の考え方に大きな違いがなかったからだ。違いがなければ審議もできない。結局、運航行政刷新相の写真撮影問題や仙谷由人官房長官の自衛隊「暴力装置」発言など無意味な応酬に終始した。
予算について違いがないのは、各党とも選挙に負けることを恐れ、国民に言うべきことを言えないからだ。年明けには通常国会が始まるが、このままでは空疎な国会が繰り返される。
そんな愚を繰り返さないためにも、この国の喫緊の課題に取り組むためにも、私は民主、白民、公明3党による期間限定の大連立を提案したい。
3党が政策協定を結び、国民への公約とする。首相は菅直人民主党代表、副首相は谷垣禎一自民党総裁。大連立政権は日本が直面する国政や経済の問題に道筋をつけた後に、解散・総選挙で国民に信を問うべきだ。
昨夏の政権交代は何だったんだろう。民主党政権の頼りなさは我慢の限界を超えそうだ。いっそ最大野党の自民党などと連立し、内外の課題に対応してはどうか!。そんな大連立を求める声が浮上し
ている。可能性はあるのか。なぜ大連立か,例えば今年度予算。歳入37兆円に歳出が92兆円。国債という借金で44兆円、「平成の埋蔵金」から10兆円をひねり出したが、国の借金残高は900兆円に迫り、対国内総生産(GDP)比は180%。どの議員もむちゃくちゃな予算だとわかっている。 先週末、BS朝日の番組で仙谷氏に問うと、「2年が限度」と認めた。3年後には露一確実なのだぷのにどの党も言い出せない。
■選挙を怖がるな
菅首相は夏の参院選で消費税率10%に言及したが、支持率が急落し、全く口に出さなくなった。選挙が、国民が怖いからだ。だが、大連立なら選挙が怖いなどと言い逃れはできない。「消費税引き上げが必要と説明しても理解してくれない」と言うが、国民は馬鹿ではない。政治家が国民に具体的に説明する方法を知らないだけなのだ。
国民が将来に見通しを持てない最大の理由の一つは年金問題だ。いまの年金制度が若い世代にとって、もうもたないのは明らかだ。夫婦で月18万円程度の給付額を確保するとしたら税金はいくら必要か。また、ますます重要になる介護で従事者の低所得をどこまで引き上げるか。そのために消費税を何%上げる必要があるのか。具体的なデータを隠さずに示すべきだ。
人間には「国民」の側面と「市民」の側面がある。「国民」は無責任で情緒的なエゴイストだが、「市民」は主体的、論理的に判断し、自分の判断に責任を持つ存在だ。ところが、国会議員は国民の側面しか見ていない。名古屋の河村たかし市長や大阪府の橋下徹知事らが活躍できるのは市民を相手にしているからだ。歳入を増やすため消費税をどこまで上げるか。どの歳出を思い切って削るか。具体的な根拠やデータを国民に示して選択させる。そうしてこそ国民も市民的意識を持ち、自ら主体的に考え、判断するようになる。
大連立が取り組むべきもう一つの課題は景気対策だ。若者の就職率がこれほど落ち込んでいるのに、臨時国会では経済の競争力を復活させ、景気回復のために何をすべきかの議論が全くなかった。1990年に世界一だった日本の国際競争力は27位に、1人当たりGDPは3位から23位に落ちた。
期間限定し国難に対処せよ
改革を嫌う官僚が跋扈し、企業も改革への時間がかかりすぎていては日本経済は長期低落から脱却できない。党派を超えた政治主導の下、政・民・官の「オールジャパン」で取り組まないと、国際競争で生き残れない。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)でも、3党の立場に違いはないはずだ。TPPは従事者の平均年齢が65・8歳で改革が遅れている日本の農業や農家を近代化させる契機になる。
昨夏の総選挙前、テレビ朝日の「サンデープロジェクト」で民主党のマニフェストを取り上げた。代表代行の菅さんに「決定的に2点抜けている。経済と外交・安全保障だ」と指摘すると菅さんは絶句していた。その後、形は整えたが、自民党を批判していればよかった民主党は経済や外交・安保を真剣に考えてこなかった。それがいま露呈している。といって民主党が「プロ」になるのを待つ余裕はもやはない。
■日本待ったなし
大連立は総選挙での国民の選択を無視するものだとの批判がある。だが菅政権も民主党も支持率は2割そこそこに落ちた。国民の多くが民主党に政権を委ねたのは失敗と考えているのだ。
いまや自民党と公明党は茨城県議選での圧勝で一挙に衆院解散・総選挙に突っ込みたいようだ。だが、菅首相は支持率が1ケタになっても解散しない。それ以上に、この国が待ったなしの危機状況にある時に、自民、公明両党は党利党略でなく、この国、国民のための政治をするべきだ。
ただ、大連立には障害がある。民主党の小沢一郎元代表の衆院政治倫理審査会への出席問題だ。小沢さんが拒むなら離党を勧奨すべきで、これは権力闘争でも改革でもない。当然やるべきことをやるだけのことだ。そして、またぞろ大手マスコミ幹部らの水面下の働きかけも報じられている。だが、そうした手法はもう古い。民主党では仙谷さんや枝野幸男幹事長代理ら、自民党は大島理森副総裁や石原伸晃幹事長らが党内から声を上げるべきだ。
格差は拡大し、社会的公正と経済効率のどちらを選ぶかは、重大な判断のはずです。日本の安全をどう守るかも、もっと深く議論されるほうがよい。
国の根幹にかかわる問題は幾つもあるのに、政治家や政党がそれを争点化できないのは、力量不足と言わざるを得ません。いまこそ国のグラウンドデザインを作り上げる能力が、政治家や政党に
私は究極的には政権交代可能な二大政党制が根付いてほしいと考えている、大連立はあくまで期間限定であり、緊急課題をやりおおせぱ解散し、各党が新たな目標を褐げて国民に信を問うべきだ。 (聞き手・杉井昭仁)