失われた20年(10年)の呪縛 日経新聞 |
質に目を転じるともうひとつの日本が見える。例えば^同等の物やサービスの価格を国際間で均衡させる通貨価値の目安、購買力平価(対米ドル基準) の推移である。OECDの資料によると、過去20年で日本円の購買力平価は1ドル= 190円から115円に60%以上上昇した。ドイツの10%台をしのぐ断トツの上昇率だ。
デフレの裏返しではあるが、「内外価格差」の解消で国内の高物価が是正され、水膨れしていた経済規模や所得の中身が濃くなり、日本人の生活水準は実質的に向上したともいえる。
法人支配の企業社会の行き過ぎの是正も進んだ。企業の交際費はピークから半減し、株式配当を上回るような非常識はなくなり、従業員を企業に縛り付ける先進国で突出した労働時間は大幅に短縮され、米国並みになった。総会屋が跛雇(ばっこ)した上場会社の株主総会も、銀行中心の株式持ち合いの解消とともに劇的に解消した。
円高デフレに民間企業が対応する過程で、世代間、地域間、企業間、労働者間などの格差が拡大。税・財政の所得再分配機能の低下も重なり、今や日本は先進国では米国に次ぐ貧富の差が大きな国という統計もある。これらの変化は「構造改革」政策の影響もあるが、多くは人為を超えた市場の暴力的な調整圧力によるものだろう。
日本発の恐慌を防ぐためのその時々の判断を、他国の威を借りる論法や結果論で批判するのはどうか。リーマン・ショツク後の金融恐慌を回避するため、欧米諸国は財政・金融政策を総動員したが、金融危機や失業問題に歯止めがかかったとはいえず、目先の金融・デフレ対策と政府・中央銀行の信認の維持の間で揺れている。バブル崩壊後の債務デフレヘの対応の難しさや、問題処理に要す時間の長さを考えれば、「周回遅れの走者」という日本批判は的外れで、「日本先頭走者」論の説得力が増す。
議論を深める際に大切なことは、無理な成長を求めて国民の期待をあおることを慎み、理想の政策があるかどうかは分からないという謙虚さを持ち、ドグマや先入観を捨てて現実を見る公平な観察者の視点だろう。近過去の最も早い時期にバブルの崩壊を見た日本の経験は、欧米諸国がたどるであろう近未来への教訓になる。日本は世界と手を携えて危機克服に努力するとともに、国内では正常化の過程で生じたゆがみを修正して成熟した「中産階級国家」への歩みを開始することである。
今こそ、正確な自己認識のために、「失われた20年」の呪縛(じゅばく)を解く時だ。
なかなか、良い考え方だと思います。
ただ、失われた20年の間に、質的に向上したという実感がわかないのですが・・・
そもそも、失われた20年とか言う言い方が気に入らなかったので、良いことだって絶対あるはずと思ったのを表現してくれたのは、嬉しい?ことです。