大機小機 下村治、高橋亀吉、高坂正堯の言葉 |
敗戦後の若い日本経済には高度成長できる力があると的確に見抜いた下村治氏のコメントはシンプルだ。転換期を説明するには過去のデータに基づくモデルではだめで、転換期をつかむことができるのは理論的な洞察力だと答えている。短い言葉だが、意味は深い。これからのエコノミストたちが心すべき勘所だ。
昭和初期の金融恐慌を体験している高橋亀吉氏の発言内容はクリアーだ。「政府がなんとかしてくれるなどと甘い期待をもってはいけません。われわれが、事業なり生活なりを肌身に感じている人が、早くどうしたらいいかを考えていく」。事業は企業経営を指し、生活は消費活動を指す。経済の主役は企業であり消費者であるという当たり前のことをさらりと語っている。
宮沢喜一氏との対談ではマドル・スルー・(mudd-ethrOugh=なんとか頑張ってうまく切り抜けていく)という言葉が出てくる。高坂氏は日本人のこうした資質が、明治時代を含めこれまでそれなりの成果を上げたことを評価しつつも、大きな変革が要求されるときに必要な手が打てないことを、強く危倶している。
実際、世界の枠組みが超大国を中心に安定していた時代には通用した。だが昨今は、人口l100万のギリシャ経済が世界を振り回し、米オバマ政権が5年間で輸出倍増の目標を掲げる、複雑系で多極化が進む世界である。相手に合わせてさえおけば大事に至らないですむ絶対的な価値、便利な価値はどこにもない。
我々は国益をぶらすことなく主軸に据えて、主体性をもって、自らのかじをとっていかなければならない。政府が動くだけでなく、国民皆がそういう意識を持たなければならない。高坂氏は日本人の資質を見直すための「広範な国民の営み」が必要だと説いた。
次世代へのバトンタッチという重責を担う中高年も含め、いま我々に最も求められているところだろう。 (一礫)