日経新聞 民主大敗が問う 河野 勝 早稲田大学教授 |
本来であれば、民主党は、政権基盤を強化すべく、参院でも単独過半数を目指すはずであった。今回その目標にはるかに及ばなかった敗因として、一般には、菅直人首相が消費税増税に言及したことが指摘されている。しかし、そのような分析はあまりにも近視眼的である。
民主党への支持が大きく揺らいだのは、鳩山由紀夫前政権が外交・安全保障分野で失敗し、さらに小沢一郎前幹事長の「政治とカネ」の問題で致命的な打撃を受けたことが原因であった。新しく首相となった菅氏は、小沢氏の影響力を排除する人事刷新を断行し、支持率を一定程度回復したことを忘れてはならない。
しかも消費税導入のアジェンダ(政策課題)化は、米軍普天間基地移設問題や小沢氏に対する批判を参院選の争点からはずすことに成功した。
もし消費税に言及せず、代わりに普天間と小沢問題を引きずったまま選挙を戦っていたら、民主党の獲得議席はもっと大きく後退していたかもしれない。
今回の選挙が民主党にとって「負けたようで負けなかった」選挙であるとすれば、自民党にとってそれは「勝ったようで勝てなかった」選挙であった。たしかに民主党が単独過半数獲得の目標を降ろした時点で自民党はこの選挙に「勝った」とみることもできよう。しかし、自民党は、政権与党が過半数割れになった場合にとるべき戦略を、あらかじめ周到に準備していたようには見受けられない。
民主党が2人区の多くで2人目の新人候補をたてたのは、よく知られているように、小沢前幹事長の方針であった。当初、民主党内では、これらの選挙区について「共倒れ」が懸念されたり、また逆に2人目の候補者が当選した場合の、小沢氏の影響力拡大が懸念されたりしていた。しかし、実際には「共倒れ」も2議席独占も起こらず、どちらの懸念も現実のものとはならなかった。
この小沢氏の戦略について、一部のメディアは、2人目の候補が相次いで落選したので功を奏さなかったという評価を下している。しかし、同一選挙区におけるライバル同士の戦いは、かつて衆院が中選挙区制だった時代の自民党の派閥争いと同様、潜在的な支持を掘り起こし(つなぎとめ)、党全体としての動員を高めるポジティブな効果を生んだと考えられる。積極的な候補者擁立をしていなかったら、という反実仮想状況では、民主党の獲得議席数はさらに大きく下がっていたであろう。
したがって、みんなの党の真価は、「第三極」として今後どう成長できるかではなく、民主党と自民党を巻き込んだ政界再編を実現し、既存の二大政党制をより安定した二大政党制へと脱皮させることができるかどうかにおいて、問われているのである。
みんなの党が民主党との連立に加わらず、与党が参院で過半数を確保できなくても、それが政界再編を通じて長期的な日本政治の安定をもたらすことになるとすれば、同党は、ひとつの大きな使命を果たすことになるであろう。
こんな見方もあるのか、新鮮ですね。