ピアニスト 中村紘子さん 朝日新聞より |
才能を高く評価されてきた中村さんだが、自分の中には常に不満があったという。まず手が小さい。ピアノを始めた戦後まもない時代は、日本一流の演奏家を聴けなかったことも悔やまれた。明治、大正世代の指導者による教育は欧米と違っていて、長じてそれに気づいても、一度型にはめた演奏を変えるのは至難だった。
目の前が開けた気がしたのは、やっと50歳を過ぎたころだそうだ。それが時代であり、自分であるのだから仕方がない。そう思うようになって音楽が変わったという人間への理解、音楽への理解が進んだ気がした。大事なのは、自分は音楽が好きだということ。
その好きな音楽で何を語りたいのかを考えれぱいいのだと思うようなった。
「そうしたら、古くから聴いてくださる方に言われたんです。最近、うまくなったねって」
ピアニストは精神も限界まで突き詰めるのだろう。(小林 伸行)