セカイカメラ開発 井口氏 日経ビジネス |
ずっと温めていたアイデアを具現化させるきっかけも、ジャストシステム時代の仲間の何気ない一言だった。
「世界を変えること、やってる?」事業の運営に苦労していた2007年12月。久々に再会した旧友の問いに、井回は頭を殴られたような衝撃を受けた。自分が口癖のように言っていたことを問われ、「自分は世界を変えるようなことをしていない。いったい何をやっているんだろうかJと愕然とした。
井口が折に触れて思い返す言葉がある。「テクノロジーとは、あなたが生まれた時に存在しなかったすべてのものだ」。現在のパソコンの概念を提唱したとして知られる米国の科学者、アラン・ケイが1980年代に語つた言葉だ。
その言葉を思い浮かべた井口は、「まだ存在しない、世の中を驚かせるサービスを生み出したい」との焦燥感に駆られ、アイデアを書き連ねた。
その1つが、学生時代からの思いを具現化するセカイカメラだった。
頓智ドットを立ち上げたのはこの頃だ。奇妙な社名には大きな意味がある。
「僕らにはカネはないし、仲間も少ない。未来を語るだけでなく実現させていくには、知恵を絞り出すこと、つまリトンチが必要。僕らにとって、元手も資本もトンチなんですJ。
「セカイカメラは世界を変える」。井回は、そう信じている。様々な場所と結びつけて記録された情報を、人々がセカイカメラを通じて共有できれば、人と人の思考がつながり、可視化される。「究極的に世界平和につながるのではないか」。いかにも哲学科の出身らしい発想である。