チッコリーニさん 日経新聞 |
対してチッコリーニ自身は「本当は客席から私が見えないように、つい立てを置きたい。鍵盤と手しか見えない照明システムも欲しいのだけれど、まだ実現しない」と大まじめな顔で話す。
チッコリーニの演奏家人生は、必ずしも順風満帆ではなかった。
大芸術家たちとの親交を通じて成長する一方、私生活では「つらいことが多く、孤独を愛してきた」。今も一人暮らしで「毎日ピアノを弾き、友人や弟子が会いにくる。それだけが私の宇宙」と明かす。
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作曲家を自身の「神」として、特定の宗教にも属さない。「個人の幸福より、自分の使命を果たすことが大事」との信念からだ。「使命」とは「10本の指を自由に操ること。数百回弾いている作品でも、あたかも初めて出した音のように弾くこと」。そうした生活の中で「精神の混乱を捨て、シンプルに生きられるようになった」という。
クラシック音楽の希望の芽は、 今や東洋にある」とチッコリーニは考える。「西洋では文学や哲学、音楽といった真の芸術が、生活から抜け落ちてしまった。日本などアジアの方が、伝統的な文化を大切にする心が残っていると感じる」。巨匠が頻繁に来日しているゆえんだろう。
本格的なデビューはパリ。特にフランスのピアニスト、マルグリット・ロン、アルフレッド・コルトー、イヴ・ナットの3 人に多くを教わった。「彼らはびた一文もレッスン料を取らなかった。だから私も音楽は基本的にビジネ
アルド・チッコリーニ 1925年イタリア・ナポリ生まれ。ナポリ音楽院のピアノ科と作曲科を卒業。
49年ロン・ティボーコンクール優勝。フランス国籍を取得し7‐〜89年にパリ国立高等音楽院教授。日本人を含む多くのピアニストを育てる。評伝に「アルド・チッコリーニ わが人生一(ペスカ‐ル・ル・コースではなく、人から人へ与えていくものだと思っている」
(文化部 瀬崎久見子)