金融危機は日本の好機(08/10/20) 日経ネット |
この中にあって、日本は相対的には健全な金融と実体経済を維持している(もちろん相対的であって、不動産、株式相場下落等のデフレ圧力は急激に大きくなっている)ことから世界の日本を見る目はいい意味で変わってきているように思う。しかも前述したようにこの問題に関しては経験豊かである。これは久しぶりに訪れた大いなるチャンスではないか。これをチャンスととらえれば、円高・世界的株安は産業界にとって、買収を含む海外事業の拡大によるグローバリゼーションを一挙に推し進める格好の機会であろう。なにしろ1年前には手の出しようもない時価総額だった名だたる欧米企業も、この株安で時価は大きく減じており、このところの円高と併せてみれば日本企業にとってもかなり魅力的な水準になってきている。マインドセット、つまりその気になって世界に行くつもりになれば、一見大きな懸念材料になりかねない円高もここでは強力なプラス要因となる。
さらに政策面での影響力が大いに高まることが期待できる。我が日本は唯一、国という単位ではあるがバブル崩壊の完全なるパッケージを経験している貴重な存在である。金融当局には当時続出した難題と格闘した手練れが今、枢要な地位についている。白川方明・日銀総裁、佐藤隆文・金融庁長官などはその筆頭の方々であろう。ここは大いに自信を持って世界の中でのリーダーシップを発揮していただきたい。
他方、気をつけなければならないこともある。それはいろいろな形で我が国に支援、貢献を求められる局面が増えてくる可能性があるということである。大きな外貨準備を持ち、国内では潤沢な円の流動性を維持しているこの国に国際社会が応分以上の負担を求めてくる懸念である。これからしばらくは大変な時代になるとは思うが、日本としてここは目を大きく開き、主体的かつ積極的にグローバルな舞台で主導権を握り、ピンチをチャンスに変えて次に来るべき新しい時代の中心に位置できるよう、戦略的思考をもって事を成していく心構えを持つべきではないかと考えている。
(KKRジャパン代表取締役社長・蓑田秀策氏 寄稿)