NHK関西のニュースでやってたフィギュア 堀井和美 |
”サイクルフィギュア”、この耳なれないスポーツは、
特殊な自転車でアクロバティックな技を、
決められた時間内にいかに正確に行うかを競う競技である。
残念ながら日本では認知度、注目度とも完全にマイナースポーツである。
ドイツで競技人口5000人以上いるといわれ、
各地にクラブチームが存在し、多くの大会も開催されている。
英語では『アーティスティックサイクリング』と呼ばれているが、
まだオリンピック競技になっていない。
特殊な自転車はロードレーサーのようにフレームが細く軽量。
前後のタイヤの距離が短く、ギアも前後が同じ大きさで1対1の比率、
ブレーキはなく、ペダルを止めることでブレーキとなりバックも可能、
それでスピードをコントロースする。
ハンドルは360度回転、クルクルと回る。
選手はこの自転車に乗り、ふた通りの動き方を交えて演技する。
その動きとは、
ひとつはコート上に描かれた直径4メートルのサークルの外周を回りながら演技を行う。
もうひとつは、このサークルの中心にさらに直径50センチのサークルが描かれており、
この小さなサークルを中心に8の字を描くように回りながら演技していく、
という、ふた通りの動きだ。
ひとつ目の動きではタイヤがサークル内に入ってしまうと減点になり、
ふたつ目の動きでは50センチの小さなサークルを必ず2度通過しなければ、
やはり減点となってしまう。
競技時間は6分。
現在サイクルフィギュアには約200種類もの技がある。
選手はこの演技時間内に行う技を最大28種類選び、事前に申告しておく。
ひとつの技でサークルをひと回り、
または8の字を描いて回り高ポイント獲得を競うのである。
スピードが速ければ回転が難しく、遅いとバランスがとりにくい。
技に入る前にどの程度の勢いをつけるかが重要なポイントである。
この微妙な調整が面白い。
ふらつき、落車は減点の対象になる。
6分間の競技時間内に、
器械体操の大技で見せるような勇気とフィギュアスケートのような華麗さ、
微妙なバランスを保つための緊張感、なによりも集中力をもって演技しなければならない。
この競技の日本チャンピオンが堀井和美である。
龍谷大学入学時に友人がサイクリングをしたいということでサイクルサッカーを目にし、
興味を持ったのだが女子部はなく、断られた。
しかし、サイクルフィギュアがあると教えられた。
これが出会いである。
”サイクフフィギュア”のコートは、14×11メートルの大きさが取れる室内競技場が理想だが、
ほとんどの体育館は室内で自転車に乗ることにあまり好意的ではなかった。
初めは大学の構内で練習を始めた。
それがハンドボールコートに出世して徐々に室内でも可能になった。
それでも週2、3回確保するのがやっとだそうである。
競技を見ていると結構筋力を必要とするので、
筋肉もりもりを想像していたが、華奢な感じさえする女性である。
彼女曰く
「大事なのは”体幹”です。
私も昔は筋力トレーニングで力をつけることに結構集中していた時期もありました。
でもドイツで10ヵ月トレーニングしているときに、
ドイツのトップ選手たちが”体幹”を大切にしているんです。
体の中心、頭から背筋を通した体の軸からなるバランス。
筋力構成もバランスよく鍛えることで
力のいるような技もスムーズにこなすことが可能になった気がします」
そんな話をしながら簡単にウィリー(前輪を上げる)を見せてくれた。
ハンドルの上に乗りバランスをとるので怪我も多い。
2度の大ケガ、靭帯断裂も経験している。
でも面白いからと続けている。
欧州選手権は1928年、世界選手権は1956年からスタートしており歴史はある。
世界選手権での最高成績はシングルでは16位。
昨年の大会では過去最高得点を記録した。
それは自分の力がアップしていることの証明でもあった。
なによりもまだ十分戦えると思えるようになった。
現在は生まれ育った滋賀県草津市を中心に
京滋サイクルフィギュアクラブ『ブルーレイクエンジェル』を作り、
子供たちにこのスポーツを広めようと指導にあたっている。
日本でも2001年に世界選手権が開催されている。
まだまだマイナーの域は脱し切れないが、いつしかはオリンピックだって夢ではない。
「夢の冒険者たれ!」とは彼女の父が遺してくれた言葉である。
まだまだ時間はある。
いつしかオリンピックに!!
そんな夢を抱いて実現に向かっていく堀井和美を応援したい。
〜『翼の王国』2005年4月号
連載「Cheers!(文:宮本恵造)」より