お一人様のバイブル 日経 |
「おはかた、世をのがれ、身を捨てしより、恨みもなく、恐れもな叛命は天運にまかせて、惜まず、いとはず。身は浮雲になずらへて、頼まず、まだしとせず。
一期の楽しみは、うたたねの枕の上にきはまり、生涯の望みは、をりをりの美景に残れり」 現代語に訳せば-隠遁して一人で暮らすようになってからは、誰かを恨むようなこともなくなった。命を天運にまかせ、死を恐れることもなくなった。我が身を浮雲と思えば現世の幸運を願ったりもしない。生涯の楽しみはうたた寝に尽き、望みは折々に見た美しい景色に残っている。
一人、自然の中で暮らし、自分と向き合ううちに、鬱献した気持ちから解放され、どんどん内面を充実させ「豊かな孤独」に至る。
「一人様」世帯が主流になる時代、『方丈記』がバイブル的な存在になり、〝変人〞囁長明が脚光を浴びる予感がする。