持たない暮らし 下重暁子さん 7 |
いかに必要最小限のもので暮らせるかの実験をしたい。物はないが、どれだけ心豊に暮らせるか。それは、わたしの問題だ。
その二日後、吟行先で風邪をひき、死期を悟った先生は、一切の医療を拒み、自ら尊厳死を選んだ。父上の鹿児島金剛寺の住職も同様にしてなくなられ、自分もそうしたいと、エッセイにも書かれていた。
本当の自由を手に入れるためには、自分と闘わなければならない。世間と闘うのは、まだ楽だが、自分の欲望と闘うことは難しい。・・・物だけではない。愛情といった執着から自分を解き放たなければ、自由にはなれない。
わたしも身の始末をして、自在な心で死にたいと願っている。そのためには、毎日を簡素にシンプルに、無駄なものをそぎ落として心を自由に遊ばせなければならない。そのための辛さも厳しさもあえて引き受けねばならない。 (完)