喜びと悲しみの訪れた永遠の静寂 |
リッグは「こんな素晴らしい人生がいつまでも続くはずがない」という漠然とした不安を持ち、いつもそれを恐れていたという。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の診断結果に「ああ、やっぱり」と思った
に違いないと妻エレノアは自著『ゲーリッグと私』で語っている。禍福はあざなえる縄のごとし、というがあまりに振幅が大きい。
その六月二日の夕暮れに静寂が訪れた。「一瞬、本当に美しい表情が走った。私はルーが今この世に別れを告げたのだと悟った」
その後もALSとの闘いに生涯をささげたエレノアは八四年に八十歳で亡くなった。
疲女の次の言葉は味わい深い。「今、喜びもないかわりに、悲しみのない別の人生をさしあげようといわれても、私はやはり、ルーとの短い幸福と絶望の日々を選ぶでしょう」。
喜びと悲しみの八年は二人の珠玉の時間であった!