気鋭の精神科医 斉藤 環 氏による若者分析 |
れ」「もっと前向きに」などの言葉をかけても、
なかなか響かない、という話をよく耳にします。
斎藤 元からrもっとがんばろう」r前向きにな
ろう」と思っている人には有効かもしれない。
しかし、一般に、押し付けてはダメですね。押
し付けば欲望をそぐ有効な手段ですから一切ダ
メです。「お前らも俺のようにやれ」というのは
まったく無効ですよ。引いてしまうだけ。とく
に全共闘世代は、人に押し付ける傾向が強いで
すね。私も、ひきこもりの人には「もっと社会
に関われ」と言いたいのですが、意欲がない人
に、そう言っても無理なのです。治療をしてい
て、一番言いたくても言わないことですね。.
一押し付けず、やる気を出させる方法とは?
斎藤 意欲というのは、精神分析の考えでいう
と、内側から出てくるものではありません。人
からもらうものなのです。欲望というのは感染
性があって、何かに非常に熱い意欲をも6て行
動している人の周囲の人は自然に感染する仕組
みになっているのです。ですから、欝.
を持たせたいのであれば、欲望をもってギラギ
ラしているような人と同じグループで仕事をさ
せること。仕事や社会に関わるという欲望をモ
デルとして示していかないと、感染しようがな
い。単純ですが、それしかないと思っています。
お手本を示すしかないということですね。
斎藤 個人的な印象を申し上げますと、100
年ぐらい前からおなじパターン。若者は自己中
心的で自分勝手、考えが浅い、勉強しない、こ
らえ性がない、性的にだらしない…と、紋きり
型の若者論です。信頼するに値しないと思う。
そういうことを言う人は自分達が若いときにど
謡う言われていたか思い出してほしい。そういう
偏見でみているうちは、若者は心を開いてくれ
ないし、コミュニケーションも成立しない。
一コミュニカティブな若者と、ひきこもりの
若者と、イメージが結びつかないのですが。
斎藤 コミュニケーション格差が広がってい弓
のです。今の若者の価値基準はコミュニケーシ
ョン能力に一元化されている。コミュニカティ
ブか否か。仲間内ではほとんど、そこで評価さ
れてしまうのです。平均的に若者はコミュニカ
ティブになり、そこから取り残された人は、自
分からどんどん撤退していくんですね。
一それは、どう理解すればよいでしょうか?
斎藤 彼らが、よくモノが見えている、見えす
ぎているということです。例えば、私たちの世
代に通用した方法論として、体験主義というも
のがあります。キャンプでも、特訓でも、何か
リアルな体験をすると、自分の新たな可能性に
気が付いて、別の自分を見出したり、意欲を見
出したり、と体験主義は有効性が高かった。
ところが若い世代は、すでにあらゆるメディ
アからさまざまな情報を取り込んでいて、どん
な体験もみんなテンプレート化(ひな型)され
ている。新鮮さがない。キャンプであれば、rい
きいきとした目の輝く青年になるにちがいない、
と周りは期待しているんだろうな」ということ
が、あらかじめわかっている。
そもそも体験主義は、何が起こるかわからな
いのがいいところです。