シャボン玉 日本 野坂昭如著 |
ここまでまともな方とは、存じ上げなかった。84歳にして、このようなバランスのとれた思考ができることは、素晴らしいと感じました。自らの戦時中の体験を活かした発言は、戦争をしてはいけないとの強い思いにもつながっているし、大震災の被災地の方を思いやることにもつながっています。
その上で、安倍政権のあやうさにも気付き、警鐘をならしています。また、農にも強い関心を寄せていて、「農には食糧安保とは別に、自然を守る役割がある。これを忘れるな。その土地の風土に合った農法を用いて小さな田畑、傾斜面の生産地でも、そこで穫れる作物も恵みだが、農業によって守られてきた自然こそ日本の財産」とまで言われています。
<抜き書き>
・敗戦直後の日本と今を一緒にするのはおかしいというが、あの頃だって日本は間違っていないと思い込んでいた。
・安倍首相は集団的自衛権の行使容認を押し通した。これからの日本のあり方に関わる大転換を、わずかなメンバーによる閣議決定できめるという暴挙に出た。
・一度戦争が始まれば、人間という生き物はいかに変わってしまうのか、あの時代が特別なわけじゃない。例えば人は、極悪非道、残酷無残な行為を平気でやる。戦争がいかに愚かであるか、数え切れない犠牲を出しながら何も伝わっていない。そのしるしが現首相の言動に現れている。
・人間は便利が好きだ。いちど覚えた手軽な道を繰り返し使ってきた。責任は先のものが取ることにして、現在を楽しむ。その手軽な道の先に何があるかなど考えられない。
・インチキでいい加減な大人たちの集団は、戦争中とよく似ている。
・石炭から石油に乗り換えるためお上が用意したのが生活保護。突然職を失った鉱員たち、その半ば近くが生き腐れれてしまった。だが世間にとっては他人事。
・やっとの思いで収穫した米は、他の田んぼの半分以下。なるほどこんなやり方では、食っていけないと、よく理解した。遊びのつもりはなかったが、いわゆる日曜百姓は驕りだと判った。その米がうまかったことは未だに忘れられない。
・(オリンピック誘致で)不景気、デフレ脱却をもくろむ先進国の欲深さ。オリンピック精神とは程遠い。
・かって世界の覇権国アメリカ、しかしアメリカ中心の世界にもはや戻ることはない。アメリカ追従の時代は終わった。日本は自ら考え、今日は日本独自の道を進むしかない。
・農に限らず自国の食べ物と、どう向き合うか、成長戦略、日本を取り戻すなどと勇ましくおかしな言葉遊びをする前に、列島の民を飢えさせないために為すべきことは何かという観点から考えるがあるべき姿。
・日本人の発想力、手先の器用さはちょっと他国には真似ができない。この背景には、農に込められた知恵、携わる者の細やかな心遣いが関係する。お天道様に合わせ寒知り、季節にさしく水を管理する。いずれもすることはできない。
・農から遠ざかり、手城にかける技、創意工夫する力の育つ土壌が失われ、知恵の伝承が断たれる。製造業の衰退の危機はこんなところにも原因があるのではないか。
・大手の参入が進めば列島に工場みたいなのが残る。農業の改革を言うのなら、足もとから見直すべきだ。元来、農には食糧安保とは別に、自然を守る役割がある。これを忘れるな。その土地の風土に合った農法を用いて小さな田畑、傾斜面の生産地でも、そこで穫れる作物も恵みだが、農業によって守られてきた自然こそ日本の財産。
・TPPが言われる。ちょちょ外国とのモノのやり取りが活発に行われるのは結構なこと。だが自由化、グローバル化などと勇み足はよくない。農の基本はその土地の基盤による。地域で生きていくことが大事。日本の農は自給率を含めた現状見直すことが必要だ。日本は能力してきた。まず、農のあり方を考え直すべきだろう。
・TPP参加によって、遺伝子組み換え食品の流通は確実に増えるだろう。アメリカの穀物会社の巨額な収益につながり、世界における食料支配はいっそう強まる。人類にいかなる影響を及ぼすのかわからぬまま遺伝子組み換えの技術にのみ先走り、と言って、もはや後戻りできないところまできた。
・新しいエネルギー基本計画の政府案が出された。日本は脱原発のきっかけを完全に失った。政府案は原発依存に終始、原発再稼動が大前提になっている。2014/03
・問題は脱原発、原発推進の二者択一ではない、問われているのは日本人としての生き方。…あの事故の恐ろしい教訓としてどうやって生かすか。3月11日を境に歴史はどう変わったのか。のちに問われるだろう。
・仮に全国54基原発を止めたとして、原発とともに生きてきた人たちをどうするのか。これまでカネをもらってきたのだからしかたないでは済まない。地域だけの問題じゃない。日本人全ての方肩にかかる事柄。
・自然災害は人智を超えている。避ける術はない。核廃棄物は人間の作り出したもの。人間に始末る責任がある。
・だが、食物、土、水、空気、みな汚染されている。子供の頃から薬品漬け、抗生物質の乱用。自分では摂っていないつもりでも、口にする牛や豚、鶏の多くは飼育の段階で餌に抗生物質が混じっている。野菜には農薬。日本人は寿命が長いといって一概に喜んではいられない。半世紀待たずとも、今の子供たちの寿命は短くなるだろう。
・借金に次ぐ借金を重ね、今が良ければそれで良い。高度成長を成し遂げて以後続く上っ面の豊かさを味わいつくし、歪み、綻び、ガタガタになった日本を、次の世代に渡す大人たち。僕も含め、少年よ大志を抱けとは、とても言えた義理じゃない。
・自分たちの身に合った生き方とは何か、非被災地の人間ほど、立ち止まって考えるべきだ。
・戦後すぐは高度経済成長を達成して豊かになるというビジョンを描き、実行した。それが達成され、さて次はとなった時、日本はやるべき事を失った。とにかくお金儲けが一番、満足することなく金を追い求めてきた。経済の立て直しを言う前に、堕落の道を辿った日本の来し方を検証するほうが先。
・アンチエイジングとやらで歳を取ることを嫌い、老いることも極端に避ける。人間は老いや死と向き合うことで成長するのだ。年寄りに課せられた役割は、若い人に老いや死の実態を見せることにもある。
・誰しもあやふやになる時がある。自分を確かめるには他人の存在が必要。この他社との確かめが人間を成長させる。機械を通してのやり取りを否定はしないが、短絡的、身勝手な思考の若者を生む土壌であることも否めない。
・若いうちは人生の幅を狭く感じる。本当は一番広い時なのだ。これと信じていても、違ったり、猪突猛進、勢い余って怪我もしよう、だが多少の寄り道こそ人を豊かにする。今はこの寄り道のしにくい世の中。
・円安も結構だがあらゆるものを輸入に頼る日本、隅々まで値上げが響く。そこで他国任せの怖さに気づけばいいのだが、さらなる安いものを求めて海外に手を伸ばす。
・おとなたちは若者の想像力を買ってきた。ぼくは、若者に動物的本能の残っていることを願う。
・今の大人たちに学ぶより、先人の知恵を生かしたほうがいい。アメリカ式にどっぷり首までつかる時代は終わった。日本の良さを改めて考えることから将来が始まる。
・ぼくは女性たちの動物的勘が関係あると思う。出生率低下には意識無意識にかかわらず、女性たちの漠然とした危機感があるのではないか。…大気汚染、温暖化が言われ、自然破壊の進む。僕は女性たちがそういう具体的に神経質になっていると思えないが、どこかで生物としての危機を感じているのではないかと思う。
朝日書評より 一部