医学の限界を知り「人は必ず死ぬ」受け止める覚悟を!! 太田秀樹さん 朝日新聞 |
「たとえば、最期のときに病院に運んで治療するのではなく、家族が休暇を取ってそばにいるという医療です。そのためには「死」を受け止める覚悟が必要です。少しでも長く生かそうと死のそのときまで点滴を続けることがありますが、点滴すればむくんで苦しくなる。しなければ眠るように安らかに旅立ちます。
—在宅医療は病院より質が低いと言う人もいます。
「在宅でも、エコーやX線、外傷の縫合もできます。質をはかる尺度を『数値改善』に限れば、在宅の方が低いと言う人もいますが、生活の質を考えると、病院より質のいい医療をしています。たとえば、病院で放射線をあててがんの大きさが半分になっても、だるくて苦しくて寝たきりになった末に命を落とすのと、放射治療をせずに自宅で緩和ケアをし、苦しくないようにして好きなものを食べて、家族と暮らすのとを比べてください。命は短いかもしれないけれど、後者の方が幸せじゃないですか」
ー在宅医療は、増え続ける医療費を減らし、安上がりにするためだ、と言う人もいます。
「愚者の生きざまを支える在宅医療は無駄な医療をしないので、結果的にコストは下がる。末期のがん患者に高額な化学療法をしなければ、安上がりになります。でも、コストの問題はあくまで結果です」
「在宅医療は、入院の受け皿ではなく、外来の延長線上にあります。外来に来られなくなったから在宅で診療をする、ということです。病院は行って帰ってくるところ。行ったままにならないことが大切です」
「医学が進んでも病院がすべてを解決することはできません。高齢化が進むと、医療が逆に状況を複雑にすることも多い。骨折手術で入院して認知症や寝たきりになったり、肺炎で入院して胃ろうをつくられ、口から食べられなくなったり……」
「高齢者が入院すると、のみ込むと危険だと入れ歯を外されることがあります。退院するときに入れ歯が合わなくなると、食べられなくなってしまうのです。医療に支配された生活は不幸です。人はみな年をとる。足腰が弱ると、通院しにくくなります。病院はその虚弱な、要介護の高齢者が抱える心身の問題を解決する場所ではありません。虚弱な高齢者を支えるのは、生活の場や地域で行われる医療であり、介護です」
「人は必ず死にます。それを受け入れなくてはなりません。それが、いまの医療の課題です。最期をどう迎えたいのか、私たち一人一人が考えなくてはいけないと思います」