政党ありき ひっくり返したら 朝日新聞 日曜に思う |
東京都知事選挙への立候補を表明したとき、家入一真さん(35)は、そんな批判をたくさん浴びた。
というのも、政策はこれからつくります、と言ってのけたからだ。確かにこれまでの立候補の作法からは大きくはずれている。とくに50代、60代の人たちから「お前は知事になったら何をしてくれるというのか」と迫られた。
「だけどそれには違和感を感じました」と家入さんは話す。「今は政治に対してお客でいられる時代でしょうか。人々も政治といっしょに何をやれるか考えないといけないのでは」
だから、立候補にあたっては、まず人々との対話が必要だと考えた。守れない公約を掲げるよりも、都民の声を集める。それをもとに政策を練る。
家入さんの呼びかけに、選挙期間中提言や課題を記したツイッターのつぶやき4万件近くが寄せられた。からかいや冷やかしを除いての数だ。
選挙での得票数は約9万票で5番目だったけれど、政策について自分で何かを書いてみた支持者の多さではもっと上位かもしれない。この声を5、6人のチームが読みこみ、整理して5項目120の政策に練り上げた。
政党が念入りに準備した公約を示し、選挙でその支持を競う。家人さんはそんな通常の政党や選挙のあり方をひっくり返した。最初に、人々に考えてもらう、そして政党がそれをまとめる。
人々との関係を「ひっくり返そう」とする政党は、世界各地にすでに登場している。
たとえば欧州諸国に広がっている「海賊党」もそうだ。2年前の小紙の企画記事「カオスの配賦」で紹介したドイツの海賊党は、ベルリン市議選でこんなプラカードをかかげていた。
「僕らは質問者、君たちが回答者」党は、人々の考えをまとめる「編集部」と割り切っている。
欧州で海賊党などが広がる背景には、議会制への不信がある。自分たちを代表しているのか、ほんとうは有力組織の代弁者にすぎないのかわからない政党や政治家、守られないマニフェスト。近代民主主義の骨格のはずなのに投票率の低下傾向が止まらない。家入さんたちの「インターネッ党」が出現したのも、日本だって同じ問題を抱えているからではないか。
実際、家入さんも市民の議論をネットでうながす欧州の政党を知り「おもしろい、これで民主義をバージョンアップできる」と感じたという。
たとえば自民党の憲法改正草案には現行憲法にはない「政党」という項目がある。
「国は、政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることに鑑み、その活動の公正の確保及びその健全な発展に努めなければならない」
だが、振り返ってみれば、都知事選で主要政党は候補者選びに迷走した。自民党はかつて除名した人を支持し、民主党は右往左往。結局、各党は乗れそうな勝ち馬をさがしていただけだったのではないか。まもなく始まる大阪市長選でも、政党は橋下徹市長に「独り相撲をとらせる」とはいうが、有効
な対抗策を示していない。
今のままで政党を「不可欠の存在」と「鑑み」るのは難しい。わざわざ憲法で言及しようというのは、存在意義が薄れていく不安の表れとも読める。
家入さんは、.今回の経験から人々が政策を議論するよりよいシステムを作り上げ、東京の区長選にもかかわっていきたい、という。人々の声を聞くところから出発することにこだわる。
家入さんと彼を支えた多くの若者たちの挑戦は、これまでの政党のあり方に疑問符を突きつける。それはとりもなおさず、私たちへの問いでもあるように思える。
あなたは政治のお客のままでいいのですかーー