何かを捨てることから始まる 小田嶋隆さん 壮絶人生 朝日新聞 |
ところが、30歳前後から、アルコール依存が始まりました。30代はまるまる酒浸り。酒が切れるとうつ状態になるので、自殺しないためには酒を飲み続けるしかない。原稿を落とすことが重なり、仕事もかなり減りました。
最終的に断酒したのは39歳のときです。あまりに体調が悪くて、5日間酒をやめたら、ほとんど眠れず、幻聴まで出た。あわてて心療内科に行くとアルコール依存症と診断されました。「このままだと40代で酒乱、50代で人格崩壊、60代でアルコール性痴呆・もう一生飲まないしかないよ」と宣告された。
それまでは人と会うのも、音楽を聴くのも、野球を見るのも、すべて酒を飲みながらでした。「酒をやめるというのは、酒のない人生を新たにつくることだよ」と医者に言われて、慣れ親しんでいたことを片っ端からやめた。好きだった音楽も聴かず、野球も見ない。断酒自助グループのアルコホーリクス・アノニマス(AA)では「棚卸し」というんですが、いわば人生をリセットしたんです。
酒をやめると、膨大に時間が余る。何をしていいかわからない。サッカー観戦にはまったり、自転車を乗り回したり、イグアナを飼ったりした。何かで時間をつぶさなければいけなかったからです。
■「自律」は勘違い
私は「やめる」こと以外は何も達成していません。サッカー観戦も自転車もイグアナの飼育も、あくまで時間をつぶすための手段。酒をやめたことで仕事はうまくいくようになりましたが、それは結果であって目標じゃなかった。
AAでは、最初に「私は、自分では自分の人生をどうにもできない人間であることを認めます」と言わされます。これは一理あって、「自分で人生を立て直せる」と思いこんでいると、依存症からは逃れられない。ビジネス本に書いてあるような[自分の人生を設計する」という感覚は、「カネさえあれば何でもできる」と同じくらい軽薄ですよ。「自分で自分を律する」というのは大きな勘違いで、そういう意識があるかきり、人生のやり直しはできない。
就職のやり直しにしても、結局は運です。「夢に向かって努力する」では、こだわりでがんじがらめになるだけ。自分がどの仕事に向いているかなんて、実際にやってみなければわからない。
人生を途中からやり直そうとするなら、まず何かを捨てることです。捨てた結果、その空白に強制的に何かが入ってくる。その「何か」がいいか悪いかは、また別の話ですけれど。私は会社を辞め、酒と一緒にそれまでの生活を捨てたことで多くのものを失いました。でも、代わりに手に入れたものも明らかにある。あそこでやめていなかったら、今のような人生は歩んでいない。どちらがいい人生だったのかはわかりませんが。
30歳過ぎた人間が、自己を改造するなんて不可能です。もうできあがった人間なんだから。ただ、何かをやめることはできるかもしれない。人生をやり直すには、何かを「目指す」んじゃなくて、「やめる」ことからです。(聞き手・尾沢智史)
2018/07/28もアクセスがあったようで、ありがとうございます。
あれも、これもじゃなくて、思い切って捨てる、これが良い結果を生むこともあるようです。
再読もしたら、太線だらけになってしまった、感謝です。
追記 2022/06/28
アクセスがありました、ありがとうございます!
小田嶋さん、亡くなられてしまいましたね、ご冥福をお祈りします。
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