「がん哲学外来」を提唱する病理学者 樋野典夫さん(55) 朝日新聞 |
その後もボランティアや健保組合などの運営で毎週末、首都圏で開く。各地への出前も多い。「病院外、それも喫茶店がいいのです」
悩みを聞き、青年期から愛読する政治学者、農学者、がん研究者の著作や、体験から生まれた「人生の言葉」を探る。時に、ドキッとするような言葉。「あなたにはまだ、死ぬという大切な仕事が残っている」治療法が尽きると、患者を診なくなる専門病院も多い。がん医療にも哲学が必要だ、と感じる。NPOを設立し、記念シンポジウムを皮切れに広がりを目指す。
島根県の無医村に生まれ、医師あ志した。だが、なまりに引け目を成U、患者を診る臨床には進まなかった。以来30年、顕微鏡でがん細胞をみて悪性かどうかを見分けたり、発生過程を研究したりしてきた。
転機は05年、アスベスト(石綿)が原因のがん「中皮腫」の患者を診療したこと。診断に役立つ腰湯マーカを開発したのが縁だった。職場で石綿を吸い込み、数十年後に発病、すでに末期の人も少なくなかった。心の手当てに必要なのは、励ましや慰めではなかった。「患者が自らを据り下げて考え、がんと向き合うための言葉だったのです」