豊田さんのコラム 普通の人に近づくこと |
私の経験ではプロ選手が衰えていく過程は才能あふれ、すべてをほしいままにしていた人が、普通の人間に近づいていくことを意味する。怖いのは筋肉や目、耳などの衰えではない。頭のなかのイメージの枯渇だ。「こうなれば打てる」というイメージがわいてこなくなる。どんなにひどいスランプのときも、頭の隅まで探せば必ずみつかったはずのイメージがどこにもない。これは恐ろしい。
凡庸な打者に限って「プロの投手は制球がいいので、外角低めに来るところを狙います」などと答える。
そこがそもそもの間違いで、一流の打者も外角低めはそう打てるものではない。打ったコースをみれば、ほとんどが甘い球であることがわかる。「真ん中のバレーボールくらいの大きさのゾーンに絞って待ってごらん」というのが、私のアドバイスだった。
普通の打者になったとき、この言葉が私自身に返ってきた。つまりは衰えた自分を認めること。それで少しは選手寿命が延びた気もする。
イチローや松井秀が普通の人への過程に入ったとは思わないが、それは時間の問題だ。普通人への階段を下り始めるとき、どう対処していくのか。天才のままでいる彼らより私は勉強になると思う。