百均の「赤いきつね」と迷ひつつ、月曜だけ買ふ朝日新聞 |
横浜の消印がある投稿はがきには「ホームレス 公田耕二とあるだけ。歌に詠む通りだとすれば、「公田さん」は炊き出しの列に並び、時には星空の下で眠る暮らしをしている。登場から4ヶ月余りたったいまも年齢や経歴はわからないまま、投稿が続いている。
歌壇には彼を思う歌が数多く寄せられている。ある人は寒い夜を過ごす身を案じ、病を抱える人は「公田さん」に生きる心をかきたてられている。そうした作品と本人の歌が期せずして響き合うこともある。わずか31文字が人々の心に様々な掛鵬を解き、それがまた新しい歌を生む。見知らぬ者同士を結びつける言葉の力の強さを実感する。
「もしや行方知れずの友人では」という手紙や、「ホームレスのイメージが変わった」と書いた高校生の感想も届く。歌と作者の実生活が完全に一致するのかどうかは分からない。だが、仮に創作であったとしても、具体的な描写とそこに込められた痛切な感情は人々の心に深く刺さり、社会の片隅にある過酷な現実を考えさせる力がある。
反響の多くに引用されるのが、<百均の「赤いきつね」と迷ひつつ、月曜だけ買ふ朝日新聞>だ。食事か詩か。厳しい選択の歌は、ゆとりの産物と思われがちな芸術や表現活動が、実は生きるために欠かせない切実な営みであることを、改めて思い起こさせてくれる。<山口 宏子>
表現活動が、実は生きるために欠かせない切実な営み という言葉は、ジーンと来ますね。